'05政治思想学会(2)
日本政治思想学会の批評の続き
報告者 坂本達哉 会員 「私益は公益?――日本におけるイギリス思想史研究の一特質――」 【要約】 ・日本における「社会思想史」研究は、一方では体制の国家主義に対抗しつつ、他方では俗流マルクス主義の経済還元主義を批判しながら、社会変革の「実践的」な学知を構想したが、それは4つの思想潮流(①経済学(史)的潮流、②政治学的潮流、③哲学・倫理学(史)的潮流、④社会学(史)的潮流)に区分できること。 ・「社会思想史」研究者(典型的には、水田)は、スミスの「保守性」に気づきながらも、「革新」的視点への共鳴から、その「保守性」の意義を考察するには至らなかったこと。 【コメント】 今大会で一番興味深かった。この分野については不勉強だったので、多々勉強となった。内田も水田も専門研究では言わずと知れた大御所なのだが、現在ではそうした専門研究以外の人間には忘れられつつあるのではないだろうか(小生も恥ずかしながら名前ぐらいしか認知していなかった)。忘れられつつある思想研究者の「新しさ」を知ることができたが、そうした「忘却」されつつある言説の「発掘」に、「思想史」という学の意義を感じた。 「社会契約論」「スミス」「マルクス」という言説は、いわゆる教科書的な記述では、往々にして「近代化」「民主主義」「市民社会」という「大きな物語」に編成されがちであるが、これらが相互に異質な言説を構成している点を改めて確認できた。
・内田義彦は、忠実なマルクス主義者でありながらも、秀逸なスミス解釈によって「経済学の成立」問題に対し、斬新なアプローチを提示したこと((a)スミス解釈の二潮流(理論史と思想史)の統合、(b)道徳哲学者スミスと自然法学者スミスの統合、(c)重商主義批判とヒューム正義論批判の結合)。
・水田洋は、講座派マルクス主義の問題を継承しながらも、その「経済学」から距離を置き、スミス解釈から社会思想史学の方法論的基礎付けを試みたこと。「同情」と誤訳された sympathy の意義に早くから注目し、それを「公平な観察者」の「見知らぬ他人」として早くから再解釈を行っていたこと。
28日分科会(B)
報告者 松本雅和 会員「ウォルツァー〈複合的平等論〉の再検討――多元主義とシティズンシップの社会哲学構想を巡って」
報告者 森 達也 会員「アイザイア・バーリンが捉える自由の理念――現代リベラリズム論におけるその位置づけをめぐって」
報告者 松尾哲也 会員「レオ・シュトラウスの政治理論の特徴とその意義――カール・シュミット批判から古代ギリシャ政治哲学へ」
・全般的に、報告の独自性がどこにあるのか、今ひとつ理解できなかった。
・松尾報告に対しては、小生は質問しようと思ったが、時間の関係でできなかった。
例えば、シュトラウスのシュミット解釈の問題
シュトラウスのシュミット解釈はかなり単純化され、「友/敵」「決断」という言説のみが対象とされ、報告もそれを辿っているが、それでよいのか。シュミットにおいては、「政治」が「経済化」されていく20世紀政治への「抵抗」という文脈があり、その文脈でのカトリック的秩序概念の公法学的復権(「友/敵」「決断」もこのカトリック秩序と不可分)というスタンスがあるが(これについては和仁陽の卓越した研究『教会・公法学・国家―初期カール・シュミットの公法学』参照)、それらが捨象され、シュトラウスのシュミット理解を後追いしているのではないのか。
また、果たしてシュトラウスの語るように、「古代」は「近代」のオルターナティヴに成るのかという問題への批判的視点なしには、その意義を充分に論じることはできないと思うが、そうしたものは読み取れなかった。
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