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2009/03/30

「選挙」というあなたの知らない世界

・オバマ政権が誕生した昨年のアメリカ大統領選挙が「ユーチューブ選挙」と呼ばれたのに対して、未だにネットでの選挙運動が日本でNGなのよく分からない。ただ「選挙運動」はともかく「政治活動」(この区分の根拠もよく分からないが)では、すでに各政党ともメーリング・リスト、HPはむろん、Youtube やニコニコ動画などで政策を訴えているようである。有権者=視聴者の視線で言えば、騒音でしかない候補者の名前連呼などよりはるかにマシだが、動画の作りは、政見放送の延長上でまだまだ発展途上といった印象は否めない。
・この日本の選挙運動の「異様さ」を映像化した『選挙』(想田和弘・監督)が国際映画祭で高く評価されたことは良く知られている(私はNHK特番「民主主義」で視聴した。候補者本人視線からの詳細については、山内和彦『自民党で選挙と議員をやりました』を参照。)。

自民党で選挙と議員をやりました (角川SSC新書)自民党で選挙と議員をやりました (角川SSC新書)
山内 和彦

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・政治経験もコネもない山内和彦氏(通称山さん)が自民党の地方選挙に立候補し悪戦苦闘する物語なのだが、強く感じたのは自民党という政党組織の「前近代性」である。
自民党(おそらく民主党も)が共産党や公明党などの組織政党とは違って、候補者個人の後援会中心の政治運動を行っていることは知っていたが、それはよく言えば「昔ながらの伝統的なスタイル」であり、悪くいればそれは「全く時代遅れ」でしかない。

・神奈川県川崎市議会という東京のベッドタウンが舞台だが、地元の有力者(=農家兼地主)の協力なしに選挙運動ができないとか、候補者の「妻」ではなく「家内」と呼べだとか、やはり外部の人間には「異様」に思えてならない。思うにこの『選挙』が「海外で高く評価」されたのも、この日本人の風景と同化している選挙運動をある種の文化人類学的な眼差しで「異化」したからなのであろう。

・私も昔大学時代に地方選挙運動(I県A町町長選挙)の選挙アルバイトをした経験があるが、日本の選挙運動の異様さはその時から身に沁みて感じた。大学で「政治学」を勉強してますというと、饒舌だった選挙運動関係者が途端に逃げ出したのもよく覚えている(その時は不勉強で、戸別訪問が公職選挙法で禁止されていることなども知らなかったのだが)。

・最もヒドかったのは、現職の後継者とされる官僚出身の候補者(お手伝いをしたのはその対立候補)が、選挙期間中「口べた」だということ理由?で、演説らしい演説をほとんど行わなかったということである。選挙で張り切っていたのは、その「口べた」の候補者を担いだ地元の有力議員であった。そしてその姿を現さない「口べた」の候補が当選したのも驚きであった。
 もう10年以上前の話で、さすがに今はそんなトンデモ選挙が行われていないことを願いたい。だが、タスキに白手袋で名前連呼という「劇場」や「パフォーマンス」ですらない選挙運動はまだ続いているようである。候補者の資質を吟味し選別し、メッセージを他者へ訴えかける方法は他にいくらでもあるにもかかわらず。そうした候補者の自己陶酔的な政治運動が、有権者=視聴者側の目線へ変わらない限り、「政治不信」は今後もまだ続くのかもしれない。


・追記: 昨年、知り合いの先生がこの山さんを大学に呼んで特別講義を行った。盛況だったようである。短時間私がお話した印象では、山さん自身古い選挙のやり方に困惑しながらも、自民党とか民主党とかに拘らず自己の信じる政策を実現させたいという感じであった。今年の選挙がどうなるか分かりませんが頑張ってください。

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こんな精神科医がいたら心療内科にかかる患者はいなくなるような気がします。それでも病んでいる世の中なのでこのようなブラック小説好きです。 [続きを読む]

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