初学者へのハンナ・アーレント入門
・出版社の方から「アーレント初学者の方に何を薦めますか」という質問があったので、独断と偏見込みで記しておきたいと思います。
![]() | 現代思想の冒険者たちSelect アレント 公共性の復権 by G-Tools |
・概説書ということであれば、やはり川崎修先生の『アレント:公共性の復権』(現代思想の冒険者たち、講談社)がお薦めでしょう。基本的な要所が押さえられているだけではなく、「アメリカでのアーレント」という点が詳しく扱われているところが面白いです(第3章アメリカという夢・アメリカという悪夢)。川崎先生は最近待望の新刊『ハンナ・アレントの政治理論』を記されたようです。
・よくありがちなのが、三巻本の『全体主義の起原』を第一巻の「反ユダヤ主義」から読んで挫折してしまう、というものです。この『全体主義の起原』はいろんな論文の寄せ集めで混沌としているので、正直最初から読み通しても論旨を辿るのはつかれるのではないでしょうか。お薦めするのは、第三巻「全体主義」最後の「イデオロギーとテロル」を先読みして、あとは興味あるところを拾い読みするという読み方です(これはヤスパースが第三部から読むべし、といった助言をさらに一ひねりしたものです)。もともとこの部分はあとから付け加えられた独立したものなので、アーレントの言う「全体主義とは何か」を捉え易いものとなっています。
・『人間の条件』については、『はじめて学ぶ政治学』で私が書いた解説もありますが、最初の第1章と第2章で大体のアウトラインはつかめるでしょう。ただ個人的には、労働・仕事・活動という三つの分類の話以外のところが、アーレントの政治思想で面白いところだと思います。この点については『過去と未来のあいだ』(みすず書房)に所収された話のほうが詳しく、正直『人間の条件』よりも『過去と未来のあいだ』を先に読んだ方がよいかと思います。8つの論文が収められており、「自由とは何か」「真理と政治」など各論文ごとテーマが明確で論旨も辿りやすいです。引田・斎藤両先生の翻訳も優れていると思います。『過去と未来』で思想的アウトラインをつかんだ上で、『人間の条件』や『革命について』を読むと、話を掴みやすいかとおもいます。
・また最近のものでは『責任と判断』『政治の約束』なども似たようなテーマのものを集めた論文集で、内容も分かりやすくてよいと思います。とくに『責任と判断』については、アーレントが戦争責任をどう考えていたのか、ヤスパースとどうズレているのかを踏まえながら読むと面白いです(この点については過去の記事でも言及しました)。
・個人的にお薦めしないのは『ラーエル・ファルンハーゲン』と『精神の生活』です。正直研究者以外読む意味はないかと個人的に思ってます。『ラーエル』は冗長過ぎて、アーレント自身があまり出版に乗り気ではなかったようです。『精神の生活』は哲学を扱った上に、遺稿を整理したものなので、難解で非常に読みづらいです。
« 第15回 政治哲学研究会――石崎嘉彦『倫理学としての政治哲学』をめぐって(2) | トップページ | 「新しい公共」の何が「新しい」のか?――内閣府「新しい公共」円卓会議から »
「政治思想・社会思想」カテゴリの記事
- 映画「ハンナ・アーレント」(マルガレーテ・フォン・トロッタ監督)を鑑賞して(その2)(2014.02.17)
- 映画「ハンナ・アーレント」(マルガレーテ・フォン・トロッタ監督)を鑑賞して(その1)(2014.02.17)
- メディア-ネット社会におけるアーレントの「公共性」(1)(2011.09.13)
- 『人間の条件』補論a: work の政治学(2011.07.16)
- ハンナ・アーレント『人間の条件』を読む(3)――《公共性》とは何か(下)(2011.06.19)
「ハンナ・アーレント」カテゴリの記事
- 映画「ハンナ・アーレント」(マルガレーテ・フォン・トロッタ監督)を鑑賞して(その2)(2014.02.17)
- 映画「ハンナ・アーレント」(マルガレーテ・フォン・トロッタ監督)を鑑賞して(その1)(2014.02.17)
- メディア-ネット社会におけるアーレントの「公共性」(1)(2011.09.13)
- 明治大学130周年記念懸賞論文に入選しました。(2011.07.29)
- 『人間の条件』補論a: work の政治学(2011.07.16)
« 第15回 政治哲学研究会――石崎嘉彦『倫理学としての政治哲学』をめぐって(2) | トップページ | 「新しい公共」の何が「新しい」のか?――内閣府「新しい公共」円卓会議から »