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2010/09/13

「表現の自由」が息継ぎする空間を求めて(1)――毛利透『表現の自由:その公共性ともろさについて』(岩波書店、2009年)

私的な自由であるはずの「表現の自由」が、なぜ「公共性」にとって重要なのか? 著者はこの問題が従来の憲法学でうまく扱えない点から説き起こし、アメリカ、ドイツ(+日本)の「表現の自由」に関する事件・判例から考察を行う。本書は憲法学の専門家向けに書かれたものであるが、「萎縮効果」論などは現在の表現規制の問題にストレートにつながっており、その点で「表現の自由」の根幹を問い直すために読まれるべき一冊である。

 個人的には以下のような論点が興味深いものであった。
 (1)民主主義社会におけるハーバーマス的「公共圏」の意義について
 (2)「公/私」区分問題の事例としてのNPO法、NPOは、私的な組織か公的な組織か? 
 (3)表現の自由における「匿名」の重要性、「萎縮効果」論のコンテクストとしてのアメリカ・マッカーシズム

表現の自由―その公共性ともろさについて表現の自由―その公共性ともろさについて
毛利 透

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市民社会における「公共圏」の意義について

・ハーバーマスの「公共圏」Öffentlichkeit は、政治思想では広く受容されてきたが、憲法学では異質なものとして扱われてきた。というのも憲法は一般に、公共性を担う「国家権力」と私的個人の「人権」という公/私の二元論に立脚しており、この図式に対して「非国家的、脱経済的」な「公共圏」(=国家とは区分され、また私人の経済活動とは別の領域としての公共圏)が収まらないからである。

・この「国家」とも「市場」とも異なる市民社会の公共性がなぜ重要なのか? 公権力が行使する法的強制力の正当性は、民主主義社会においては「選挙」における「民意」のインプットを前提とする。この「民意」は国家の外部にあり、社会での「市民」の自由な意見の交換によって成立する。従って「市民」の意見は、単なる私人のおしゃべりに留まらず、公論として「民意」の一部を形成する可能性があり、これを蔑ろにすることはできないということになる。

・憲法学において公的=統治機構論/私的=人権論という二元論に圧倒的影響を与えたのは、カール・シュミットであるが、興味深いことに、立場の異なるジョン・ロールズもそのリベラリズムゆえにこの二元論を受容しているという。ロールズの「非政治的と政治的の区別は、私的かつ自由な善の領域と、公的かつ規律される国家権力の領域の区別なのであり、つまりは典型的なリベラリズムである」(10頁)(今年ブレイク中のサンデル先生も、この辺のロールズ批判で有名である)。

・ロールズのこの区分は、市民が「役職者」として政治的決定に参与する(=国家権力の行使者)という前提によるものであるが、著者はそれが現実としても正しくないし、また理念としてもそうあるべきではないと主張する(15頁)。要するに、政策(予算や法案など)を市民が直接決定しているわけではないが、それは技術的な工夫(電話やらネットなど)で達成可能であっても行うべきものではない、とされる。というのも、言論=権力のストレートな接続になると、そこにはその権力行使の枠組となる法的規制が必要となり、その結果自由な言論の可能性自体が失われることになりかねないからである。

・それではどのようなスタンスを著者はとるのか。著者はカントの「理性の公的な使用」の現代的意義を強調する。つまり、①何の権力も持たない私人同士が自由でオープンな言論を行い、自己の妥当性を要求して他者へ働きかけること、②この自由な討論は、直接的国家権力の掌握を行うものでないがゆえに、そこから生じる公論の正当性を権力は無視できない、ということになる。「国民」「民意」の名を借りた主張それ自体には何の「公共性」もない。むしろ自らの党派性を前提として、権力ではなく他者へ支持を呼びかける主張にこそ「公共性」は担保されるというわけである。

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