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2014/02/17

映画「ハンナ・アーレント」(マルガレーテ・フォン・トロッタ監督)を鑑賞して(その1)

・諸事情により長らく更新が滞っていましたが、不定期的に更新したいと思います。
 
 
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・何人か同僚の先生方から映画「ハンナ・アーレント」についてコメントを求められた。見ていない映画についてはコメントできないし、あまり見たいとも思わなかったので、「残念ですけど、仙台では上映されないんですよね」と言ってお茶を濁してきた。しかし先日、仙台でわりと近くの映画館で上映されることを知ってしまったので、半ば義務感で観に行くことにした。以下、独断と偏見によるコメントになります(ネタバレあり)。
 
【良かったところ】
・まずハンナ・アーレントは、名前ぐらいは知られていても、『全体主義の起原』『人間の条件』という難解な書物を書いた政治哲学者ということぐらいしか知られていないのではないだろうか。近年では一応、高校倫理の教科書でも取り上げられているが、正直分かりにくくて、的確に解説されているとは言いがたい(昨年出題されたセンター試験の問題も、問題自体が妥当ではないと私は思う)。そうした教科書では「難しく・分かりにくい」アーレントが、実際何を考え、当時の「政治」とどう向き合ったのかという点をこの映画はうまく描写できていたと感じた。
 
・波瀾万丈なアーレントの人生(ハイデガーとの不倫関係、ドイツからの亡命、夫ブリュッヒャーとの邂逅、アメリカでの成り上がり等々)の中で、敢えてアイヒマン裁判を中心としたのも、その点では良かったように思う。映画パンフレットの監督コメントを読むと、どの時代の何をテーマとするのかについて、アーレントの書簡集などを読み、2003年から脚本家と議論を続けた上で、ようやく2006年にまとまったらしい。監督が意図した「思考の人アーレント」対「無思考の人アイヒマン」という対立構図も、平板ながらも映画のメッセージとしてうまく伝わったのではないだろうか。そうした文脈で、本映画の最大のポイントは、実際のアイヒマン裁判の映像を作中に巧みに用いることで、当時のアーレントの眼差しと思考を追体験できた点であるように思う。
 
【悪かったところ】
・さて、実際のアイヒマン裁判の映像が織り込まれていた点は見所だったが、それ以上得るものはほとんどなく、全般的に「退屈」だったというのが正直な感想である。
 
・アーレントのライフヒストリーはE・ヤング=ブリューエルの浩瀚な伝記などで既に知られている。冒頭から登場するアーレントとメアリー・マッカーシーとの掛け合いも両者の書簡集をベースにしたものである。本作品のハイライト「8分間のスピーチ」は創作らしいが、これもオリジナルではなく、パンフレットの解説によると「独裁体制の下での個人の責任」(1963)などを元にしており、新たな知見やメッセージはない(大学設定の細かなところも気になるがここでは割愛する)。
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・その点において、本作品は「原作」の映画化が抱えるジレンマに直面していた。それは「原作」を知らない初見者も、「原作」を知っている者も同時に楽しめるものになるか、ということである。そして本作品はこのジレンマを克服したとは思えない。「原作」を知らない者にとって、本作品には説明不足の点が多い。例えば、登場人物の人間関係全般についての説明描写が少なく、「分からない所はパンフレットの解説かwikiを見てね」と言わんばかり。作中で度々登場するハイデガーとの回想シーンも中途半端な印象が否めない。本作で両者の関係は短い回想シーンでしか登場しないが、両者のあいだの複雑な人間関係(師弟関係・不倫関係・ドイツ/ユダヤ関係)を短い回想シーンに押し込むのは相当無理があったのではないだろうか。その他至るところで「分かる人にしか分からない」描写が多いように感じた。

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