民主主義とは何か――森政稔『変貌する民主主義』
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変貌する民主主義 (ちくま新書 722) 森 政稔 by G-Tools |
「民主主義」をテーマとした本は、その何がアクチュアルな問題なのかを検証せずに、それを目指すべき題目として描くことが多い。もう少しマシなものでも、「民主主義」の歴史の教科書的解説に終始し、何が現代の問題と関係しているか不透明なものが往々にしてある(最悪なのは、思想史的な検証もせずに「民主主義は虚妄だ」風の物言いで何か大きなことを主張した気分になっているものである)。本書はそうしたありがちな「民主主義」本とは一線を画し、現代社会、とりわけ2000年以後の現代日本の状況における「民主主義」の問題を構成する論点を一つ一つ検証した中身の濃い一冊である。
・むろん、政治思想史という学問分野では、「民主主義」についてこれまで多くのことが論じられてきた。しかしながら、一方では、丸山眞男に代表されるいわゆる「戦後民主主義」路線への崇拝、他方ではその「丸山=戦後民主主義」の偶像破壊という対立において、どれだけ生産的な議論が行われてきたか疑問を感じる。著者の森氏はこうした不毛な対立を避け、丸山らの議論の意義を認めながらも、その議論の多くが前提としていたリアリティがもはや存在しないとして、丸山らが「書いたこと」ではなく「書かなかったこと、関心を持たなかったこと」にこそ検証しなければならないとする(39頁)。それは、(1)自由主義と民主主義との関係、(2)多数と差異の問題、(3)ポピュリズムとナショナリズムと民主主義との関係、(4)主体性の変容の問題 という4つのテーマとして本書で取り上げられている。