2008/05/26

民主主義とは何か――森政稔『変貌する民主主義』

変貌する民主主義 (ちくま新書 722) 変貌する民主主義 (ちくま新書 722)
森 政稔


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「民主主義」をテーマとした本は、その何がアクチュアルな問題なのかを検証せずに、それを目指すべき題目として描くことが多い。もう少しマシなものでも、「民主主義」の歴史の教科書的解説に終始し、何が現代の問題と関係しているか不透明なものが往々にしてある(最悪なのは、思想史的な検証もせずに「民主主義は虚妄だ」風の物言いで何か大きなことを主張した気分になっているものである)。本書はそうしたありがちな「民主主義」本とは一線を画し、現代社会、とりわけ2000年以後の現代日本の状況における「民主主義」の問題を構成する論点を一つ一つ検証した中身の濃い一冊である。

・むろん、政治思想史という学問分野では、「民主主義」についてこれまで多くのことが論じられてきた。しかしながら、一方では、丸山眞男に代表されるいわゆる「戦後民主主義」路線への崇拝、他方ではその「丸山=戦後民主主義」の偶像破壊という対立において、どれだけ生産的な議論が行われてきたか疑問を感じる。著者の森氏はこうした不毛な対立を避け、丸山らの議論の意義を認めながらも、その議論の多くが前提としていたリアリティがもはや存在しないとして、丸山らが「書いたこと」ではなく「書かなかったこと、関心を持たなかったこと」にこそ検証しなければならないとする(39頁)。それは、(1)自由主義と民主主義との関係、(2)多数と差異の問題、(3)ポピュリズムとナショナリズムと民主主義との関係、(4)主体性の変容の問題 という4つのテーマとして本書で取り上げられている。

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2008/04/07

古典とは何か――『はじめて学ぶ政治学:古典・名著への誘い』

photo
はじめて学ぶ政治学―古典・名著への誘い
岡崎 晴輝 木村 俊道
ミネルヴァ書房 2008-03

by G-Tools , 2008/04/07

岡崎晴輝・木村俊道(編)『はじめて学ぶ政治学:古典・名著への誘い』(ミネルヴァ書房)が刊行されました。政治思想の古典文献を初学者向けに解説した書物です。私が、「政治Ⅱ:アーレント『人間の条件』」の部分を執筆担当してます(Amazonでイメージが表示されてないようですが、装丁も素晴らしい)。

古典文献のエッセンスを専門家が初学者向けに解説するというのは、ありそうでなかったような気がします。ホッブズ、ロック、ルソーといった古典中の古典から、シュミット、アーレントなどの20世紀の思想、そしてフェミニズムや多文化主義、エコロジーなどの現代に至るまで幅広い内容を、30代前後の若手の研究者が担当するという構成になっています。

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2007/07/18

講義で扱った文献・資料⑤:「映像の20世紀:民族の悲劇果てしなく」(映像資料)

補講では、「NHKスペシャル:映像の20世紀:民族の悲劇果てしなく」(放映年1995年、NHKエンタープライズ)を視聴した。

NHKスペシャル 映像の世紀 SPECIAL BOX NHKスペシャル 映像の世紀 SPECIAL BOX
山根基世

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2007/07/17

講義で扱った文献・資料④:「水は誰のものか」(映像資料)

 講義では「NHK特集 Water Crisis 水は誰のものか」(放映日2005年8月5日)を映像資料として視聴した。  番組のテーマを一言で言えば、「水は人間生活において必需品であるものの、その管理の「民営化」に伴い、世界各地でトラブルが生じている」ということである。フィリピン・マニラ、アメリカ・カリフォルニア州・フェルトン、イギリス・ウェールズ、各地での問題が報告されている。

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講義で扱った文献・資料③:西洋法制史、政治思想史

「法」の歴史 「法」の歴史
村上 淳一

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 村上氏は言わずとしれたドイツ法史学の泰斗。同書は大学での法史学の講義ノートが原型らしいのだが、資料内容が充実しており、大学生のみならず法史学の入門者が最初に読むべきスタンダードといった印象。「スタンダード」ながらも中身は濃い。内容を一言で言うならば、西洋の〈法〉秩序(権利意識、法/不法という二分コード)が、いかに日本の伝統的「法」意識に異質であるかを、実証したものなのだが、西洋の法体系を普遍とする見方への批判(=いわゆるポストモダン法学)も展開されており、非常に勉強になる。

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2007/07/15

講義で扱った文献・資料②:ジョン・ロックとリバタリアニズム

全訳 統治論 (ポテンティア叢書)全訳 統治論 (ポテンティア叢書)
John Locke 伊藤 宏之

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John Locke, Two Treatises of Government(統治二論)の翻訳書。岩波文庫版や中公版が、第二部からなのに対して、第一部のR・フィルマー「家父長論」批判が併せて翻訳されているのが特徴。無論、二部からだけでも読み進めることはできるのだが、ロックがこだわったフィルマーの話がどのようなものなのかを踏まえると、ロックの市民社会のビジョンがより明らかに見えてくる。訳も日本語として読みやすい。岩波版や中公版に比べて割高なのが難点。

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2007/07/14

講義で扱った文献・資料①:「所有権」「自己決定」「主体」

 講義では、「自己決定」「自己責任」が現代社会を支える大きな原則であること、しかしながら同時に「自己」「決定」「権利」「責任」という言葉自体が自明なもののではなく、その見直しが行われていることに言及した。近年では、哲学、倫理学、法学、経済学、政治学、社会学、教育学などの多方面の領域で、そうした再考が行われている 。

生命倫理とは何か生命倫理とは何か
市野川 容孝

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「臓器移植」や「脳死」「中絶の権利」など、現代の生命倫理に関わる問題を22項目取り上げ解説した書。各論点ごとに問題の経緯がコンパクトにまとめられており、入門書的なものとしても役立つ一冊。本書が他の生命倫理の書と異なるのは、「倫理」を個々人の内面的規範の問題であると同時に、「経済」という制度的次元の問題を強調している点である。その点で、第六章で取り上げられた「医療経済」(「医療保険」「高齢者医療」「人体の資源化・商品化」)の話は興味深いテーマであるが、個人的には、もう少し踏み込んだ議論をして欲しいと感じた。

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